東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10689号 判決
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【説明】
本件の請求原因の骨子は次のとおりである。
「1 被告は、主務大臣の許可を受けた東京穀物商品取引所の商品取引員である。
2 原告は、被告に対し本件有価証券を預託した。
3 本件有価証券は、原告が将来、東京穀物商品取引所における商品取引を被告に委託する場合の委託証拠金充用証券に用いる目的で被告に予め預託したものであるところ、原告が被告に対し現実に商品取引の委託をしたことはないから、被告は、原告の請求があつたときは、本件有価証券を返還する義務がある。
4 <略>
5 よつて、原告は、被告に対し、右有価証券の引渡し並びに右有価証券の引渡しが不能の場合における履行に代る損害賠償の支払いを求める。」
【判旨】
二請求原因2の事実については、被告は当初これを認めたが、後に右自白が真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるとしてこれを撤回すると述べるに至つたので、右自白の撤回の許否について判断することとし、まず、右自白が真実に反するか否かにつき検討する。
1 <証拠>を総合すると、原告名義の商品取引の被告に対する委託に備えての原告名義の口座の開設、受託契約準則遵守の承諾は、昭和五〇年一二月四日行われたが、その際に、下司敦美の委託に係る下司摩美名義の口座から支払われた利益金四二万円が原告名義の前記口座のための委託証拠金に充てられたことが認められ、また、<証拠>によると、下司摩美名義及び原告名義の被告に対する商品取引委託に備えての承諾書、前記四二万円に係る下司摩美名義及び原告名義の各領収証及び受領書、下司敦美名義の六五〇万円の委託証拠金の受領書並びに被告、下司敦美及び石田裕良の三者間の被告における下司敦美口座の帳尻損金の処理等に関する和解契約書の同人の作成部分の各押印の印影がいずれも同一の印鑑によるものであることが認められる。
2 しかしながら、<証拠>によると、原告名義の商品取引の被告に対する委託に備えての口座開設の際に、被告における下司摩美名義の口座から支払われた利益金四二万円が原告名義の口座の委託証拠金に充てられたのは、右利益金はそもそも原告が娘摩美のために積み立てた預金を下司敦美が商品取引に用いて挙げたものであつたので、原告が右敦美にそのように処理するように指示した結果であることが認められ、また、<証拠>によると、下司敦美は、自己の商品取引関係の書類等の作成の際に原告方で日常使用している認め印を用いていたが、たまたま原告の指示を受けて原告のために、原告名義の被告に対する商品取引委託に先立つ承諾書、委託証拠金四二万円の領収書及び受領書を作成したときにも、同一の印鑑を用いたこと、被告は、昭和五一年三月一〇日下司敦美らとの和解契約において、原告名義の被告との取引に関する債権債務についてなんら言及することなく、同日現在被告と右敦美との間に和解条項以外に全く債権債務のないことを確認したことが認められる。したがつて、前記1の認定事実をもつて直ちに本件有価証券が原告によつてではなく、下司敦美によつて預託されたものと推認することはできず、ほかに、被告の前記自白が真実に反することを認めるに足りる証拠はない。
3 よつて、被告の前記自白の撤回は許容されないから、請求原因2の事実は、当事者間に争いがないというべきである。
(加藤和夫)